約 5,664,544 件
https://w.atwiki.jp/zombiestory/pages/183.html
4階では、先の4人から教えられた部屋に8世帯21人が息をひそめる様に集まっていた。 その殆どが比較的若い女性で恋人や夫が、帰宅するのを待っている内に孤立してしまったとの事だった。 他にも年配層の世帯が数世帯居たそうであるが、絶望的な状況に失望して自殺の道を辿った。 生存者はリーダー格で平沢という老人が、上手くまとめて居た為に一応の平静を保っていた。 平泉巡査長の訪問に、状況に対して冷静すぎるとも言える応対があった。 「随分近くで射撃音が聞えたのでな、こりゃ若しかしたら救援が来たのかと思って若いのを様子見に行かせたのだよ」 ご苦労さん、と労いの言葉に救援部隊の規模を聞かれて、平泉巡査長は応えた。 「警察側では本官を入れて4人です、他に自衛隊が12名ほど支援に来ています」 想像していたよりも、救援の人数が少ない事に軽い失望を感じつつ平沢老人は感謝の言葉を述べた 「ここに来るまでに大分、苦労をされた様じゃな、兎に角来てくれて助かった、あそこで震えとる奥さん方が 仏さんに喰われるかと思うと、不憫で不憫で仕方が無かったよ」 奥を覗くと、恐怖の一夜を過ごした真っ青ですがる様な表情をした女性達が肩を寄せ合うようにしていた。 「長い時間の確保は困難です、ここに居る吉田巡査が誘導致しますので急いで避難してください」 突然の解放に腰が抜け切ってしまった彼女達を、介抱しつつ吉田巡査の誘導で数人ずつエレベーターで 階下降りてゆく、避難作業が順調に進んでいよいよ自分達が避難する段階に差し掛かった時、平沢老人が居ない事に 気が付いた、奥を除くと老婦人と一緒に仏壇に線香を立てている所だった。 仏壇には30代の男性と女性に、その子供と思われる3人の家族が納まっていた。 「息子夫婦だよ、6年前に他界した、交通事故だった、、」 なんとも言えない雰囲気が静かに漂っていた。 「、、、避難は順調です、我々が最後ですから急いで下さい」言わなくても次の言葉が分かるような気がした。 「わし等はもう良いですから、お先に行きなさいワシは、こいつとここで最後まで残りますから、、」 説得不可能を思わせる、全てを悟り切った澄んだ目をして老人が言った。 「馬鹿な事は言わないで下さい、本官が責任を持って安全に送り届けますから、どうか避難してください」 「良い目をしているな、、責任感と若さに燃えた良い目をしている、昔はそんな目をした奴が大勢居た、 ワシもその1人だった、、」すうっと老人の目が細くなり何処か遠くの彼方を見ているようだった。 数十年の彼方を超え、目の前にいる責任感あふれる青年の目が遥か彼方の戦友にだぶる、、心は遠く時間を超え 其処にはテニアン島防衛歩兵第50連隊大隊本部付き、指揮小隊第一分隊長の平沢軍曹が居た 「軍曹殿! 平沢軍曹殿!、、」橋本伍長の切羽詰った煤けた顔が其処に有った。 「艦砲射撃で大隊本部は壊滅しました、小隊長の山田少尉は先ほど戦死されました小隊は10名を割っています!」 市街は既に陥落し、島内で唯一の水源地マルポも陥落した時だった、、あの時も全く絶望的な状態の中にいた。 風景が変わって、深夜になる、8月初め連隊は最後の総攻撃を敢行していた。 米軍から打ち上げられる、絶え間ない照明弾で辺りは青白い光を受け人々は幽鬼の様に前えと進んでいた。 激しく降り注ぐ巨弾に、人々は肉塊と成って飛散した、スコールの様に注がれる銃弾は人々を将棋倒しに打ち倒し 火炎放射器の炎は突進する将兵を焼き払う地獄の壁となって前進を阻んだ。 この戦いで生き残った将兵は、以後の戦闘で組織的行動が困難になり光輝ある皇軍から敗残兵へと転落していった。 激しい暑さの中で水源地を失った生存者は、戦死した戦友の遺品を漁り僅かな窪みに残されたスコールの恩恵に 群がり、兵も民間人も浅ましい争奪戦の中で戦友の血で汚れた水溜りを啜った、絶望的水飢餓が日本軍支配地域に 蔓延していた。 それでも僅かな希望に胸を抱いて平沢軍曹は残り少ない部下を引き連れて後退していた。 カロリナス台地へ、カロリナス台地へ、、珊瑚礁の隆起によって複雑な地形と無数の洞窟があるカロリナス高地は 天険の要害となって米軍の、特に戦車の侵入を阻んでいた、、島内で唯一の生存が可能な地域を求めて 部隊は、避難民は後退して行ったが、そこは決して彼等が求める安全な楽園ではなかった。 「敵襲!!」洞窟の中に響き渡った怒声と共に、手榴弾が投げ込まれた 毎日が絶望の日々の中で次々と崖から飛降り、海に到達し得ない者がドサッっと砂袋を落とす陰惨な状況の中で、 それは突然起こった。 爆発の轟音が立て続きに起こり、避難の間に合わない者の手が、足が、肉片が飛んで来た。 火炎放射器が洞窟内に注ぎ込まれ、酸欠状態の者が耐え切れずに飛び出し炎に巻き込まれてゆく。 次々と壕内に爆薬が投げ込まれ、日本軍最後の拠点は崩壊していった、そんな中でも生き残った者には 新たな試練が待ち構えていた。 「野郎!撃ち殺してやる」橋本伍長が怒りで真っ赤に喚き散らした。 「何だ如何したんだ?」との問い掛けに橋本伍長が答える 「隣の壕内に居た、鈴木って野郎が攻撃の最中でテメェの命惜しさに自分の娘を殺しやがった!」 今では当然のように聞かれる話に、未だ怒りを感じる橋本伍長の人間らしさが感じられた。 「それで、、今如何している?」、一瞬の沈黙の後で橋本伍長が悲しげに応えた。 「野郎、自分で絞殺しておいて今では娘の遺体抱えて泣いてやがる」 怒り狂う伍長を抑えて話のあった洞窟内に入っていった、奥に男が1人小さな遺骸の前で嗚咽していた。 「可哀想な事をしたな、、」 問い掛けには答えず、男は涙を流しながらゆっくりとこちらを見た。 「済んでしまった事は諦めろ、それより娘の遺体を海に流してやれ、早くしないとまた艦砲が来るぞ」 男がおずおずと懐から何かを取り出して言った 「兵隊さん、マッチを1本頂けませんか?、今迄持って居たのですが火が無くて出来なかったのです」 飛行場拡張用に使っていた、ダイナマイトが手に握られていた、、マッチを渡すと感謝しつつ 男は洞窟を出るように促した、数分後に壕内で新しい爆発が轟いた。 ふと意識が現在に戻る、あの橋本伍長も今は居ない、、同じ目をした若い警官に言い知れない懐かしさを感じた。 「巡査さん、あの若い人達を宜しく頼みます、わし等はもうこれ以上逃げ回るのは嫌なんです どうかそっとして置いてください」 固い決意の澄んだ目で応える平沢老人に、説得不能を感じて平泉巡査長は老夫婦を置いて出て行く事にした。 扉を閉める老人に、静かな敬礼を送った、、閉められた扉は軽い音と共に内側から鍵がかけられた。 踵を返してエレベーターホールに急ぐと、階下の高田巡査から通信が入った。 「避難民は自衛隊の小型車両で退避中です、我々は階下で待っています急いで下さい」 1階に戻りエレベーターホールを出ると、ちょうど自衛隊車両が避難民を乗せて走り去る所だった。 焦りまくった浅田巡査の引き攣った表情と、吉田巡査の実直な報告が平泉巡査長を迎えた。 「平泉さん、随分遅かったですね、第3班の方で30人規模でゾンビとの交戦があり自衛隊が支援に向かっています 我々には退避命令が出ました」「高田巡査は?」 「退避方向の確保で大通り方面を視察しています」 急ぎましょうと急かす浅田巡査を先導にマンションを出たところで高田巡査が迎えた。 走り去った自衛隊トラックを追いかけるように平泉巡査長は部下を促した。 平泉巡査長は全員が良く見えるグループの最後尾に占位して、退避の指揮を取った。 「走るな浅田、意識を前方だけでなく周囲に向けるんだ、気持ちを抑えて確実で迅速な行動を取れ。」 走り去った自衛隊に追い付こうと必死の浅田巡査を抑える、こういう時は決して焦ってはいけない 焦った結果に殉職した例を平泉巡査長は、今回の事件以外でもいくつか知っていた。 部下を決して失いたくない平泉の強い義務感がはやる気持ちを抑え、着実に部下を指揮していた。 「大通りに出るぞ、吉田巡査は先行して退路の確保、高田巡査は周囲警戒、浅田巡査は高田巡査の後に付け」 いきなり飛び出しては、交戦中の緊張した自衛隊の射撃を受けかねないので実戦経験が豊富な吉田巡査に 先行を命じて、一番経験の少ない浅田巡査を押えることにした。 そして大通りにでる直前に道幅1.5メートル程度の間道を横切る、、、何かが動いた。 高田巡査に必死に付いてゆく浅田巡査は全く気が付かなかったようだが、経験豊富で優秀な平泉巡査長には それが白いブラウスを着た人であると直感した、距離は7メートル程で近い。 瞬間的に平泉は迷った、人か?ゾンビか? 大通りの反対側では第3班がゾンビと交戦中で自衛隊の 銃撃音が激しく響く状況下で判断ミスは死に直結する、自分だけなら未だ良い、しかし部下が、、。 短い時間の中で実戦経験を積んだ平泉巡査長だったが、それよりも長い警察官としての経験は 心の葛藤に悩んだ、警察官は治安の維持に全力を尽くし、善良な市民の安全と生命を守るべし! 市民の生命と安全!、、呪わしい呪縛。 一瞬の間に悩み悩んで遂に決断した、確認しよう、見捨てては置けない、ここは大通りに近い、 ゾンビなら先ほどの戦闘時に出て来るか自衛隊に向かっていた筈だ・・・・。 今見捨てれば絶対に助けられない現実が警察官としての平泉巡査長の決断を突き動かした。 「吉田巡査、今路地方で人らしき者が動いた、本官が確認するので貴様は高田巡査と浅田巡査を 纏めて退路を確保しつつ現状で待機しろ!」 吉田巡査が狼狽した表情で振り向く。 「平泉さん、、きっ危険すぎます、本官が援護に、、」 心の決算が付いた平泉巡査長は怒鳴った。 「馬鹿野郎!上官の命令には従え、貴様は浅田巡査が飛び出さんように注意しろ。」 言い捨てて、路地方に侵入して行った。
https://w.atwiki.jp/zombiestory/pages/112.html
『井上 健次郎』 そう、あいつと寝食を共にしてもうそろそろ一月になる・・ 会社の同僚で、一緒に遊ぶなどと言うことはなかったが、仲間内からは 軍事お宅とか、アニメお宅などと言うやつもいたが気にはしなかった。 別に自分の生活さえ脅かさなければ、どうでも良いことだと思っていた。 あいつの良さを垣間見る機会があったのは、そう去年の夏に会社主催でバーベキュー大会 なるものを行ったときだ。 こういう場所では人間の本質がよく出る、よく言う縁の下の力持ちとでもいうのか 周りを見て不備な点に進んで行動するというか・・ 川縁でけがをしたOLが居たのだが その子はお世辞にもかわいくはなかった 『救急箱ならテントに有るから・・』冷たく言い放つ男子社員、彼女はとぼとぼと 歩いていった、「ひどい奴らだな」そう思いながらも介護にいけなかった。 「ちょっとまって」振り返ると、あいつが携帯椅子を抱えながら彼女に向かってた、 「ここに座ってな!薬を見てくるよ」言い方はぶっきらぼうだが優しさは感じられる。 テントのなかを覗いて、ちっ!と舌打ちをしたかと思うと自分のザックへ戻り救急用具を 取り出してきたようだ。 足首をちゃんとチェックして傷口の消毒と、おまけに湿布薬まで・・・ 彼女はあまり感謝していないようだったが本人は気にする様子もなく包帯を巻いていた。 それからは、あいつの親切を目撃する機会が多く有った、何のことはないほんの小さな 事なのだが、みんなは避けてしまう、、、しかし面倒がらずにできるやつ。 いつしか尊敬にも似た感情が生じていた、だからだろうか、やつが一緒に立てこもらないか?こういって玄関先に現れたとき、何の躊躇もなく「いいよ!」って答えた自分が居た。 以前「どうして俺を?」って尋ねたことがある、あいつは少し照れたように 「ケンシロウに似ていたから」って笑いながら言ったっけ、北斗の拳は知っていたが あまりにも突拍子のない答えに言葉を失ったっけ、、、 まぁ要するに 物静かで力持ち 自覚はないんだが優しいらしい? 理論派だが行動派でもあるあいつになら、この命預けても良いかな、なんて思う今日この頃だ、今日もひょうひょうとホームセンターに物資の補給に行っている。 『篠崎 真由美』 どれだけの時間・・幾日が過ぎたか・・・ 机の上のデジタル時計はいつもと同じように時を告げる・・・。 今日も二階の窓から外を見つめる・・父さんたちの帰りを願い・・・・ 忌まわしい事件が噂になったとき、事の真相はともかく父さんは家の出入り口の 補強を始めた、今年中学になる弟も父の手伝いをおもしろ半分にしていた。 日曜大工が好きだったこともあって玄関以外の出入り口は堅く閉ざされ窓には光が 漏れぬよう遮光カーテンを付ける。 噂が本当だとわかったのは、隣近所からの悲鳴が聞こえたときだった、父は「静かにしているんだよ」と 私たちを抱きしめてくれた。 音を立てぬよう2階での生活が主となり否が応でも近隣の状況はわかった。 たまに金属バットを振り回しながら「楽勝じゃん!」などと叫びながら歩いているグループが居たが2度と見ることは無かった。ときおり車に家財道具満載の人たちも見かけたが、最近は生ける屍だけがふらふら歩いてゆく・・・ 一週間前の事だった「このまま籠城していても食料がつきる・・」父さんは決心したように口を開いた、「私も手伝う!」そういったけれど「若い娘がいれば別の意味で危険だ」と一蹴された。 「僕が一緒に行くから、おねーちゃんは心配しないで」父と弟はエヘンと胸を張って出て行った。その笑顔が最後の記憶・・・・・ 今日も外を眺めてる・・あれ? 変な格好のゾンビ?じっと目をこらす・・・ 皮のツナギに何か防具を纏いちょこまか動きながら移動している、声を掛けようと思うが 思い切ることができない・・・ 728 名前: はずかしいにゃあ・・・ほんとにごめん [sage] 投稿日: 02/11/07 03 27 「な、なんですとおおお。そ、それだけは、やめてえええええ」思わず絶叫する。 「うるさいわね。大きな声出したら外のゾンビどもがよってくるでしょうが。」 いつものやさしい声でなく荒っぽい声になった真由美おねいさんはまだペニスをぷらぷら させていた僕の股間にどかっと蹴りを入れた。 「ぐううう」 うめく僕。 「瑠璃。お兄さんに猿轡しちゃいなさい。大声あげられたら大変だしね」 瑠璃は黙ってうなずくとタオルで僕の口に猿轡をかました。 「そう、お母さんもしたくなっちゃったのね。いいわ、お兄さんに協力してもらいましょう」 ゾンビはもぞもぞと動いていたが、服を脱ぐのも難しいようだ。ゾンビになると服を脱ぐという 動きさえ出来なくなるらしい。真由美おねいさんはゾンビのスカートをはずし、下着を取り外そうと した。ゾンビの体はあざと傷だらけでとても正視できるようなものではない。肉もくさりかけで 真由美おねいさんがゾンビの服をはぐたびに、服にこびりついたくさった肉がみっちりっとはがれていた。 「お母さん。かわいそう。こんなになっちゃって。でも大丈夫よ。どんな姿になってもお母さんは 私たちのお母さんだもん」 真由美おねいさんはようやくゾンビの服を全てはがしおわった。真由美おねいさんは 僕の股間に目をやると、 「あら、お兄さん元気がないみたいねえ。さっきまでの元気はどうしたの?」 「ぐううむぐぐぐぐ」(元気なわけないだろう) 「あ、そうそう猿轡してたんだっけ。大丈夫よ。お母さんはこんなになる前は凄く美人で 近所でも評判になるくらいだったのよ」 「ぐうう・・・うううううう」(やめろ、やめてくれええ) 「瑠璃、元気にしてあげなさい。お姉ちゃんがお兄ちゃんにしてたようにすればいいのよ」 瑠璃は僕のペニスを口に含んだ。男としての本能は瑠璃の小さな口と戸惑うような舌の動き に反応して、こんな状況においてすらペニスをそそり立たせていた。 さっきから2時間も経ったろうか、またさっきの人が居る、帰ってゆくようだ。 けれどさっきとは少し違う・・そう背中の鞄が膨らんでいる・・ 手には何か銃のようなものを持っているようだけれど銃声は聞こえない、不思議なことにゾンビたちにはその人が見えてないようだった、彼は軽快に横をすり抜けて視界から 消えていった。 今日も外を眺めてる・・・あっ!この前の人だ!!今日は自転車に乗っている? さすがにすぐに視界から消えた。 でも1時間もしないうちに現れた、今度は荷台に沢山のものを積んだ軽トラで走り去ってゆく・・・あの人は無事で なぜ父さんたちは帰ってこないの? 枯れていたと思っていた涙が出てきた・・・・・。 今日も窓から外を見ている、もう食料も無くなったし後は餓死するだけなのかな・・・ そんなことを考えていると またあの人だ! でも今日は二人?しかも様子が変!? 道行くゾンビを1体ずつ倒してゆく、淡々と正確に・・・ あの人たちなら・・襲われないかも? このままでも死ぬだけだし、私は最後の賭に出た「父さん私たちを守ってね」そう呟きながら、窓を開けた・・・・・
https://w.atwiki.jp/zombiestory/pages/58.html
6日前 実家で、私の家族を含め泊まっていた。その夜は、長旅の疲れかあっという間に眠りについ てしまった。明け方電話で春美の旦那から電話で春美の容態が急変したと知り、急いで兄弟達と 病院に向かった。 病院に付いた時にはもう妹の春美は他界していた。私を含め兄弟達は愕然とした。驚きは それだけで無かった。前日母が噛み付いた3人の親族も相前後して死んでいたのだ。 親族だけならまだしも、母が昨日噛み付いた3人の看護婦さんも危篤状態にあるという。 また警察からの話として昨日、母が噛み付いた2人の捜査官の容態も急変し、同様に危篤状態 にあるとのことだった。 今回の原因を作った母の容態を先生に確認したところ、夜通し暴れていたそうである。先生が おっしゃるには、あまりにも暴れて手に負えないので、睡眠薬を投与したが効果が無く、手術 用の全身麻酔ガスをかがせたが、これも効果が無かったそうだ。母の病室を覗いてみた。 母は、手足をベットの枠に固定され動けないようにされていた。私達が顔を近づけると、 ひたすら噛み付こうとする。手足は拘束用具の為か皮膚が破れ血が滲みだしていた。 ただ、先生は現在の母には脈が無い。心臓は鼓動してないと言われた。それはつまり、 死んでいるということだった。医学的には。当の死んでいる筈の母はベットの上で暴れている。 とりあえず、母は蘇生(ゾンビ化)していたが、妹の春美や親族3人が死んでしまったので、 兄弟、親族と今後の事を協議した。妹の春美の旦那は、現在住んでいる所での葬儀を考えて いたようだった。その他の親族は地元だったので地元の葬儀屋に連絡し、遺体搬送の準備を 行おうとした。 来た葬儀屋の社員を見たら、手に包帯が巻かれていた。どうしたのかと問うと 「いや~、昨晩別の仏さん運んだのですが、搬送中に後ろから音がするので見てみると、 蘇生したんですよ。でも暴れるので抑えようとしたんですがその時に噛まれました。」 と言う答えだった。葬儀屋によると昨晩搬送した死体は、悉く蘇生したそうだ。葬儀屋曰く 「ご遺族、いやご家族の方は喜びますが、全ての死者が蘇生するなんて、何か変ですね。」 葬儀屋は、何か不満そうである。そりゃそうだ、死体が蘇生したら商売上がったりになるから だろう。 それと、蘇生した方々は蘇生後暴れだし、周囲の人達に噛み付いたそうである。噛み付かれて、 重症の方も多く昨晩は救急車がフル出動の状態だったらしい。それと傷害事件でもあるので 警察も同様に猫の手も借りたい位の状況だったようだ。 遺体搬送の準備中に警察から連絡があり司法解剖を行う旨の連絡があり、遺体は暫く病院に 留め置かれることになった。 病院で母の検査を待つ為、待合室に移動して待っていたが病院のフロアは異様な雰囲気だった。 腕や足に包帯を巻いた人が多いのだ。兄貴と長椅子に座り、回りで話している人達の話を 聞いていると、昨夜死んだはずのご家族が蘇生したはいいが、噛み付かれたという話が、 多かった。 数時間後、母の検査結果が出た。 診察室に通されて、心電図やら血液検査の結果を見せられた。 先生は説明する言葉を探しているようだった。でも意を決するかのように私達に向かって検査結果 を話し出した。 「死んでます。医学的には御亡くなりになれていると言う他無い。全てのデータが死んで いることを示してます。」と で何で動くのかと問う私達に、 「分からない。医学的には説明出来ない。」 呆然としている私達に向かって、先生は更に 「昨晩から、お亡くなりになられた方達が蘇生することが頻発している。蘇生後暴れだし、 周囲の人間に噛み付くのです。もう当院は戦場のような状態です。それとお母上は、 当院で預かります。」とおっしゃられた。 私達は、先生に礼を言い診察室を辞した。 待合室に出てみると、待合室自体が騒然としている。怪我人が増えているのである。救急車 がひっきりなしに到着するのだ。待合室に出て暫くすると私達は館内放送で呼び出された。 指定された部屋に入ると、先生だけでなく親族達も部屋にいた。先生は、死んだ筈の 妹や、母に噛まれた後死亡した親族の遺体が、相次いで蘇生したとの話をされた。 蘇生後の行動はどれも同じで、 ・周囲に噛み付くと。 ・噛み切った肉はそのまま食べてしまう。 それと、脈が無いのも全てに共通しているそうだ。つまり死んでいるそうだ。医学的には。 今後の処置として、病院側としては周囲に危害を与えるので、病院内にて隔離すると通告された。 待合室に戻って見ると、怪我人が更に増えていた。救急車で搬送されて来た人のうち一部の 人は、顔色か蒼く、目はうつろでひたすら周囲に噛み付こうとしている。それを看護婦さん や警備員の方が取り押さえようとしていた。 私達はとりあえず実家に引き上げることにした。いずれにせよ相談することが多すぎる。 実家に戻って、暫くは茫然としていたと思う。そのうち甥っ子の兄貴の高校生の息子がおずおずと、 「あれは、ゾンビだと思う。」と言い出した。 暫く前に米国系のホラー映画であったそうだ。現在、発生している状況は甥っ子の言う通り である。 確かに”死者が蘇って人を喰う”。それだけを見れば確かにゾンビだ。でも”常識”が邪魔 をした。子供達はゾンビということで怯えたが、大人達は一笑に付した。ありえる訳が無い。 映画の世界では無いのだ。 夜も更けてきたので、休むことにした。
https://w.atwiki.jp/zombiestory/pages/50.html
そんな事より 913よ、ちょいと聞いてくれよ。スレとあんま関係ないけどさ。 このあいだ、近所のトイザらス行ったんです。トイザらス。 そしたらなんかゾンビがめちゃくちゃいっぱいで入れないです。 ・・・略 駐車場には、どこをどうしたのやら店舗の前に半円を描くように車を並べて 身軽に動けないゾンビを寄せ付けないようにしていたんだよ。 俺は「なかなかやるな」などと思いながら、ゾンビの隙をついて車を乗り越えて 店内に飛び込んだんだけど、なんと自動ドアの開閉スイッチをオフにできなくて、 壁を作っていただけらしいのよ。すぐに自動ドアの上部にあるスイッチを切って、 手動でドアを閉めたんだ。 店内には五十人近くの人間がいてさ、いや、ひょっとしたらもっといたのかもしれない。 生存者はてんでに動いていて、まったく秩序というものがなかったから、 正確な数を数えることができなかった。 そこにもってきて、店の性格からして、子ども連れの家族が多く、躾のなってない ガキも多かったわけだ。子無しの俺がイライラするのは当然だろ? でもさ、そこは俺も大人だからさ、我慢してたよ、途中までは、ね。 限界が来たのは、トラックに乗った親子連れが、何も考えずに車の壁に突っ込んで、 店内に無理矢理入ってきたときかな。 で、よく見たらトラックに、「御意見無用」とか書いてあるんです。 もうね、アホかと。馬鹿かと。 お前らな、「御意見無用」如きで普段来てないトイザらスに来てんじゃねーよ、ボケが。 ・・・略。 その「御意見無用」一家の素行の悪いこと。人相の悪い父親は 「俺は○○組の親分を知っている」だの「俺は一月に給料、50万もらってる」だの 関係ねえだろ、そんなこたぁ。そのくせ「早くお前ら、なんとかしろ」とか 徹頭徹尾他人任せなのが笑いを誘う。俺は見えないところで ( ´@`_ゝ`)プッ って、笑っちゃった。 そいつのカミサンがまた馬鹿っぽいんだよ。ま、詳しくは書かないけど。 ガキはガキで、偏食のせいか、でっぷり太って、しかも糞生意気。 この一家が飛び込んできたことで、「こりゃここも長くねえな」と思ったね。 集団ができると、自然と派閥っていうのが形成されるんだな。 例の「御意見無用」一家を頂点にする派閥と、 一部のまともな家族と俺みたいな単身で逃げ込んだ連中でできた派閥。 最初のうちは大したいざこざはなかったんだけど、 やっぱ、食い物が絡むと殺伐としてくるんだよね。 向こうの言い分の「子どもがいるからもっと寄越せ」は、確かに理解できるよ。 でもさ、それを言っちゃあお終いじゃない。こっちの派閥にも子どもいるんだよ。 そんなことはおかまいなし、って、どういうことよ? 「御意見無用」だよ、「御意見無用」。 馬鹿一家3人でトイザらスか。おめでてーな。 よーしパパ、ここの親分だぞー、とか言ってるの。もう見てらんない。 略 トイザらスに置いてある食い物なんてたかが知れてるわけ。 それに血道を上げるのも馬鹿らしいでしょ。まぁ、「御意見無用」一家は馬鹿なんだけど。 お菓子を山盛り抱えた馬鹿ママが、馬鹿ガキに「太(フトシ)ちゃん、あーん」 とかやって、見せつけてやんの。 ゾンビの世界ってのはな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。 ガラスの向かいで蠢いているゾンビといつ格闘が始まってもおかしくない、 逃げるか食われるか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか。 馬鹿ママとデブガキは、すっこんでろ。 略 しょうがねえからさ、俺、裏口から出て、併設されてるマクド、あ、関東じゃ マックか。つうか、マクドシェイクとか、ビッグマクドとか言わねえよな。 そんなことはどうでもいいことで、とにかく併設されているマクドナルドに忍び込み、 調理場使って自分でハンバーガー作ってお持ち帰えり。スマイルが無かったのが残念。 で、目立たないように、俺らの派閥は、飯、食ってた。 すぐ、「御意見無用」の馬鹿パパにバレたけどね。 で、とりあえず、やっと継続的に飯食えるようになった思ったら、 馬鹿パパが、ビッグマックで、とか言ってるんです。 そこでまたぶち切れですよ。 あのな、ビックマックなんてきょうび流行んねーんだよ。ボケが。 得意げな顔して何が、ビックマック、だ。 お前は本当にビックマックを食いたいのかと問いたい。問い詰めたい。 小1時間問い詰めたい。 お前、ビックマックって言いたいだけちゃうんかと。 ・・・略 俺らが勝手に――つうか、なんでおまえに断らなきゃならないの?――飯、 食ってたから馬鹿パパ怒ってるし。「人間は助け合いだろ!?」とか言ってんの。 そっくりそのまま、おまえにその言葉、返すよ。で、馬鹿ガキは 「ダブルバーガー食わせないと、頃すぞ!」とか虎の威を借る狐で息巻いている。 しかし、とことんスケールの小さい親子だ。 通の俺から言わせてもらえば今、通の間での最新流行はやっぱり、 ヨッタマック、これだね。(知らない人はググッてね♪) 大盛りポテト・ヨッタマック・セットで。これが通の頼み方。 ヨッタマックってのは肉が多めに入ってる。そん代わりバンズが少なめ。これ。 で、それに大盛りポテトのセット(飲み物付き)。これ最強。 「ヨッタマックを食わせろ」ぐらい言え、っての。もちろん冗談で、だけど。 しかしこれを頼むと匂いからゾンビにマークされるという危険も伴う、諸刃の剣。 素人にはお薦め出来ない。 まあ、「御意見無用」一家は、飯食わないでゾンビにでも食われてなさいってこった。 あ、ゴメン、ゾンビの話だったね。 裏口から出ても、なぜかゾンビの姿は見えないんだよ。植え込みとフェンスが邪魔して、 裏には回れないみたいだね。ラッキー。 それでもどんどんゾンビの数は増える一方。よく考えたら、夜になっても電気を こうこうと点けてりゃ、目立つもんな。そんで、俺は提案したわけ。 「電源、落としておいたほうが、ゾンビどもを刺激しなくていいんじゃないか」と。 そうしたら、あの馬鹿、なんて言ったと思うよ。 「俺の子どもがTVゲームで遊べなくなる、って反対した」 だと。そんなのが理由になるんかい! そしたら、 「子どものいない奴に俺の気持ちがわかるか!」 とか言いやんの。馬鹿ママは 「なんであんたの言うことを、こっちが聞かなきゃなんないわけ!? キーーーッ!」 「あんたが外に出て食われりゃ、文句を言う人がいなくなって問題解決」 「じゃまだから、あんたたち(こっちの派閥)死んでよ。そうすれば、私たち、 長生きできるじゃない! 少しは私たちのことを考えてよ!」 とか無茶苦茶なことを言いやがんの。どんどん俺の立場が無くなっちゃって、まいったよ。 もうこいつとはやってられない、って思った。 一計を案じて、俺は夜中にこっち側の派閥の人間に声を掛けて、 裏口からマクドナルド内に脱出させ、電源落として、 そっと自動ドアのスイッチをオンにしておいた。 最後に俺が裏口から出て、しっかり鍵をかけておいた。 俺にも良心があるから、 『電源は落としておいたほうが絶対に安全だから』 と目につくところに張り紙はしておいたけどね。う~ん、俺っていい人だね。 で、朝が来たわけだ。 俺は、一日は待とうと思ったんだよ。いや、本当に。俺の忠告を聞いてりゃ、 「御意見無用」一家にも、あっちの派閥にもチャンスがあったはずなんだ。 ところが、朝とともに、あっちの派閥の誰かが自爆スイッチ、電源を入れちゃった。 もうわかるだろ、どうなったか。 トイザらスの店内にゾンビどもが雪崩れ込んで来たんだろうな。 俺は裏口に耳を当てて、中の様子を聞いてたんだ。 誰かが裏口のドアをドンドン叩いていたっけ。 悲鳴が聞こえなくなった瞬間に、俺らは植え込みを抜けて駆け出して、 それぞれの車に飛び乗って脱出した。 行き先はどこでもよかったんだけど、みんなは海に行けばなんとかなるかも、 って言っていたから、俺も港のほうに車を向けた。 港に着いたら、運良く近くにフェリーがいてさ、みんな、そのフェリーに 乗り込んでいったよ。何台かの車は港に来ることができなかったけど、 それも運だよね、しょうがないっしょ。 しばらく俺は港内をぐるぐる回って、来ない連中を待っていたんだけど、 いい加減待ちくたびれて、最後の最後に俺もフェリーに乗っちゃった。 まぁ、色々あったけどさ、 「他人を追いつめると、ロクなことがない」 っていうのが、今回の教訓かな(w ―――――――終わり―――――――
https://w.atwiki.jp/zombiestory/pages/95.html
暴動以前から奇妙な事件は立て続けに起こっていた。 狂犬病のような類の伝染病が流行っていると言うニュースは チラリと見たが、こんなに蔓延するとはだれも思っていなかった。 伝染病は暴動へと変わっていった。まさかこんなに続くとは。 皆が恐怖を覚えたのはテレビだろう。その時ニュースの中継は 誰もいない繁華街で暴動を制圧するためにバリケードを築いた 機動隊のものであったが、ふらりふらりと近づいてくる暴徒たちは 有刺鉄線のバリケードを何も気にする事無く進もうとしている。 その時テレビに映ったもの。 それは虚ろな目をした中年男性だった。男性は有刺鉄線に皮膚を 傷つけられても表情一つ変えず、首をダラリと横に傾けていた。 男性には首の肉の一部が無かった。 機動隊の警棒が男性の頭に叩き落とされる所で場面は変わり、 金田は箸を持ったまま呆然とテレビを見ながら固まっていた。 その映像を見た人は何人いたのだろう? あれ以来ずっと電話が通じなかった。おそらく回線がパンクしていたのだろう。 そんな時、母からの電話が鳴った。 「ああ、通じた。あんたそっちは大丈夫ね?」 「今の所ここら近所は大丈夫。一応、外に出ないほうがいいみたいだけど。 お母さんは大丈夫?」 大学生である金田サトシは田舎に住んでいる母の事がずっと気がかりであった。 何度かけても繋がらなかった電話。それがやっと向こうからの電話で繋がり、 母の声を聞きすこし安心した。 母の話によると、暴動は都市部で起こっているらしい。 田舎では何事もないと言う。 「今日も買物に行ってきたよ。あんた、帰って来れるんなら帰ってきなさい。」 「お母さん、一応家から出ないほうがいいよ。テレビじゃあまり言って無いけど あれ・・・死体が動いてるんだ。俺もそっちに避難しようかって思う。 なんか、ヤバそうだからさ。明日にはそっちに帰るよ。」 金田はそう伝えて電話を切った。 あれは怪我人じゃない。常識では考えられない事が起こっていると金田は推測していた。 金田の実家へは車で半日もすれば帰れる。 いつもは電車で帰っていたが、暴動のせいで稼動していなかった。 金田は締め切ったカーテンを開け、外を眺めた。太陽の光がいつもと変わらず 照らし続けている。金田の部屋はアパートの2階で、向かいの一軒家の部屋が 丸見えだ。若い女が住んでいるわけでもなく、夫婦と子供1人が住んでいた。2階は子供部屋で 10歳くらいの少年がつまらなそうにボール遊びをしていた。 ふと少年と金田は目が合い、金田は視線を斜め前にそらし、カーテンを閉めた。 「ああ、また覗きと思われたかな。別にお前にゃ興味ねえよ。」 金田は心の中で呟きながらカップラーメンにお湯を注いだ。 電気も通っているし、水も出る。テレビの放送が突然プッツリと止まった以外は 別にいつもと変わってない。が、外に出なくなって一週間、身体がダルくてしょうがない。 暴動ならすぐに決着がつくと思っていた。しかし、事実あれは暴動などではないのだ。 カップラーメンは2人分。一つは下の部屋に住む女子大生の分であった。 女子大生の名は足立洋子といい、金田はこんな事になるまで一言も話した事は無かった。 数日前に一階という部屋が怖くて金田の部屋に居させてもらっている。 「あのね、明日田舎に帰ろうと思ってるんですけど、君、どうします?」 金田はカップラーメンをすすりながら話した。 洋子は金田の奇妙な箸使いが気になりながらも答えに戸惑っていた。 「家の田舎はさ、なんか全然大丈夫みたい。もし良かったら ほとぼり冷めるまで一緒に避難する?」 「…いいんですか?」 洋子は期待していたように答えた。聞くと洋子の実家は北海道で、 交通機関が麻痺している今では帰る事が出来ないという。 都市部に近いこの町では安心ができない。 2人で金田の実家に避難する事が決まった。 洋子は自分の部屋へ持っていく物を取りに行った。 金田はというと持っていく物は特に無い。大事な物は昔の彼女に貰った指輪だけだ。 後は母親が緊急時用にと送ってきた避難セットの入ったバックで、 一度も使う事はないだろうと思っていた物だ。 戻ってきた洋子が手にしていた物は抱えきれない程の服! 金田は笑いが込み上げてきたが洋子は真剣だ。特に他に荷物も無かったので 車のスペースは十分にある。金田はとりあえず荷物を車に積みに行った。 もう18時を過ぎていて、うっすらと暗くなっていた。 金田は下に止めてある車へ荷物を積んだ。あとは明日の朝に出発だ。 車の隣においてある埃をかぶったバイク。まさか盗られたりしないよな…。 金田は胸ポケットに手をやり、タバコを探した。ポケットは薄い感触。 「タバコ買いに行くぐらい大丈夫だろう・・・」 包み紙を握り締めながらタバコ屋へ行った。 薄暗い道を歩いていると、人も車も無い、音さえしない町は奇妙な感覚に陥る。 住宅用の空地のフェンス沿いの先にいつものタバコ屋があり、だいぶ儲けさせてやった。 途中、遠くから一台のパトカーがゆっくりと近づいて来て、金田の顔をじっと見る。 パトカーの中には2人の警官が乗っていて窓をぴしゃりと閉めたままだ。 金田はきょとんとした顔でアゴをコクンと下げて軽く挨拶をした。 「君、ここらの人?そう・・・。あのね、なんというか、その・・・」 当然、外にいる事を注意されると思っていた金田は、警官の予想外の態度に驚いた。 「尾崎さん、はっきり教えてやった方がいいですよ。」 若い警官が先輩らしき警官にしきりに言う。どうやらただ事ではなさそうだ。若い 警官が窓を開けて身を乗り出した。 「あのさ、あのー、逃げた方がいいよ。あのね、俺達となりの町から来たんだけど、 けっこう居るよ。あの、死体が動いてる奴。ってゆーか、物凄く多い。多すぎる。 ここもさ!もうすぐ来るよ!どこに逃げていいかわからないけど、とにかく人口が 少ない所へ逃げたほうがいい!」 若い警官はなんだか興奮している。。 「最初はあんたもアレかと思ったんだけど、目に表情があったから。 マジやばいって!あいつら、普通じゃないって!」 先輩らしき警官が若い警官を落ち着かせ、対照的に平静を装いながら続ける。 「あのね、僕らの所轄はもうダメになったんだ。なんてゆうか、死体だ。 ゾンビって言われてる。とにかく中心地は危険だよ。機動隊も発砲許可が なかなかおりなくて、放水銃とかゴム弾で制圧しようとしたんだけど、 もう増えすぎてダメだ。ここの人達は早く逃げたほうがいい。」 パトカーを良く見ると、ボロボロだ。沢山の手形に毛髪。異様な匂いがする。 呆然とする金田をよそに、パトカーは進みだした。 ああ、逃げてきたんだな・・・金田はそう理解した。 途中パトカーは止まり、顔を出した若い警官が頭を狙え、噛まれると感染するぞと叫んだ。 「すぐに出発しよう・・・。」 金田は小走りにタバコ店へ急いだ。 案の定シャッターは閉まっている。外にある自動販売機は売り切れを示す赤いライトばかりだ。 「あぁ、わかばしかない…。」 いつも吸っている銘柄はない。だが、喫煙者は吸えるならなんでもいいのだ。 タバコがなければ、灰皿の中から灰だらけの吸殻でも火をつける。 2個を買った時点で『わかば』にも赤いライトが点灯した。 とにかく帰ろう。金田が前を見ると、空地の前に男性がいる。 ははーん、もうタバコはないよ・・・。金田は買ったばかりのタバコを ポケットに隠しながら歩いた。 チラリとその男を見ると様子が変だ。 青白い無表情な顔で宙を見ながらゆっくり歩いている。 うつむき加減で、目だけはその男を凝視しながら金田は思った。 「あれって、もしかして・・・」 金田は距離を置きながらすれ違おうとすると、その男はこちらに近づいてきた。 「!!!!!!!!」 金田は小走りに逃げた。ゆっくりと方向転換をする男の背中には何かが刺さっている! 「でた!でた!でた!」 辺りを見回すと、誰も居ないと思っていた通りには 他にも数人の人間が徘徊していた。看護婦もいる。 看護婦はゆっくりと金田に向かって歩いてきた。 「道に看護婦はおかしいだろ!」 金田は2人に挟まれる形だった。辺りには対抗できる武器らしきものはない。 反射的にフェンスを飛び超え、空地に出た。看護婦と男は、へたり込む金田の前に歩いてく る。 「ガシャーン」 肩ほどの高さのあるフェンスが2人を止めた。年増の看護婦は眼球が異様に乾燥していた。 2人の『ゾンビ』は金網を超える事ができないようだ。 金網に指を掛け、ゆさゆさと揺らす“死体”を前に、金田は夢を見ているようだった。 家までは300mの一本道だ。 「とにかく戻ろう…」 金田はゆっくりと立ち上がった・・・
https://w.atwiki.jp/zombiestory/pages/86.html
やっとの事で青森県内へ入った。青森ICに入り、陸奥湾を目指す。 ガソリンがもつかどうか不安だったが、なんとか無事にフェリー・ターミナル まで辿り着くことができた。 車から降り立つと、潮の香りが鼻腔に満ちた。生臭い・・・。 明かりは一切ない。人がいないのだ。無人なのだ。 「まどかー・・・、真っ暗で怖いよお」 続いて降りて来た弥生が情けない声を出した。 車のヘッドライトで港の一部が切り出された様に闇に浮かび上がっている。 本当に誰もいないのだろうか。 「船、動いてないねこんなんじゃ・・・」 言っていて、自分の置かれた状況の深刻さとは裏腹に笑いが こみ上げて来た。こんなこと予想できたではないか。 都市部の混乱、市民の暴徒化、自衛隊の出動、メディアの機能消失、 そしてバケモノの群れ。こんな状況下で観光フェリーが動いている筈が ないのだ。力なく笑う私を弥生が不安そうに見ている。 「とりあえず、何か食べ物とか探そうよ・・・」 しばらくして弥生が言った。 弥生なりに察して、私を励ますつもりだったんだろう。 無理に毅然とした態度をとっていた。 「・・・うん・・・」 結果はともかく、とりあえずの目的地に着いたのだ。 少し休みたかった。 おみやげコーナーの様なところへ行くと、宝の山があった。 たくさんの食料と飲み物。誰も手をつけていない様子だ。 いよいよおかしい。こんなもの真っ先に持っていかれるハズなのに。 手当たり次第、口をつけて胃に食べ物を流しこんでいると、だんだん 気分が落ち着いてきた。弥生も嬉しそうに食べている。血色が良くなり、 頬が薔薇色になっている。本当に人形みたいな子だな、と思う。 「さて、これからどうしよう・・・」 後ろの壁に寄りかかりながら、ため息をつくように言うと、 弥生が顔を覗きこんできた。 「まどか、車、あとどれくらい動く?」 「んー、わかんない。でもこの調子だとガソリンとかも簡単に 手に入りそうだからね、好きなだけ進めるかもよ」 「私、すごいいい事思いついちゃった」 顔をクシャクシャにして弥生は微笑んだ。
https://w.atwiki.jp/zombiestory/pages/145.html
仮眠の途中で聞きつける、かすかな異音。 それが聞き覚えのない靴音だと判断する前に、瞳は開き右腕は銃を抜き放っている。 今まで閉ざされていた黒瞳にはすでに鋭い光が宿っていた。 視線の先には、まだ状況の掴めていないであろう女性が立っている。 Tシャツ一枚で下はホットパンツにサンダルと軽装だ。手には日傘を掲げていて武装はしていないようだ。 年は尚也と同じかやや上ぐらいだろう。髪をアップでまとめていて活動的だ。 「あれ?お客さんですか。あの、お祖父ちゃんはどこでしょうか」 コルトパイソンを向けられているのに、女性の声は間延びして穏やかなものだった。 「ここのGSのオーナーなら店の裏にいると思う。親戚だったらすまないことをした」 老人の足音が近づくのを聞き、銃口を下ろしながら尚也は謝る。 「まあ、こんなご時世じゃ、どっちが悪いとも言えんなあ。葉月も気をつけんといかんぞ。もしこの人が強盗だったら今頃どうなってるか分からん。おや、今日は歩きか」 店の裏手から出てきた武老人が、女性をたしなめた。 「こんにちは、お祖父ちゃん。途中まで原付に乗ってたんだけどガソリンが切れちゃったみたい。日傘を用意しててよかったわ」 GSの屋根が創る影の下で、葉月は日傘を回しながらおどける。Tシャツが汗で透けて下着の線が出ているのも気にしていない。 「こんにちは、強盗じゃない方。お祖父ちゃんのお茶のみ友達にしてはお若いですね」 葉月は尚也のそばに来ると、軽く覗き込みながら微笑む。あまりに無防備な様子に、老人がため息をついた。 「俺は単なる客だ。ガソリンの代価を払ったらすぐ消える」 尚也は葉月と瞳を合わせずに呟く。 「お客さん?車もバイクも見当たりませんけど。あ、あなたもうっかりガソリン切らして歩いてきたんですね。だめですよ、万が一に備えて日傘ぐらい持ってないと」 尚也と老人はそろってため息をつく。それを葉月はくすくす笑いながら人事のように見ていた。 尚也は自分のおかれている状況が理解できなかった。今まで自分を見失ったことなど数えるほどしかない。常に冷静に状況を分析し、最良の方法を模索してきた。 眠っていても物音が立てばすぐに飛び起きるし、安全を幾重にも確かめた場所以外では気を抜いたことが無い。それが当たり前になっていたはずだった。 だが、今、自分の身に何が起きているのかまったく掴めなかった。 頭が重く、全身を悪寒が襲っている。指先まで隙間無く鉛を詰められたかのようだ。絶え間ない脱力感と、極度の疲労。手を持ち上げるだけの力も無い。 ベッドのようなところに寝かされて、体には柔らかい布がかけられているのは分かった。 どうやら防弾着は脱がされていて、全身を覆うのはかけられた布だけらしい。 体を動かそうにも、あまりの疲れに屈しそうになる。 すさまじいまでの精神力を振り絞り、瞳を開ける。 見覚えの無い天井。 顔を横にすると、革張りのソファーとそこに座っている女性が眼に入る。 ――誰だ?見た覚えがある。そうだ、確か葉月と呼ばれていた女だ。 そこまで意識した瞬間に、尚也はあることに気がついて心臓を凍らせた。 見知らぬ人間の前で意識を失っていた! もし相手に悪意があれば、濡れた布で顔を覆うだけで自分は死んでいる。 慄然とする尚也に、起きた事に気づいた葉月が声をかける。 「尚也さん、気分はどうです。どこか痛いところはありますか」 まるで熱を出した子供にでも話しかけるように、葉月は容態をうかがう。 「……ここはどこだ?いったい何が起きたんだ」 かすれた細い声が喉から滑り落ちる。尚也は左手を上げて額に張り付いた髪をかきあげようとしたが、腕を持ち上げてるだけが精一杯だった。 葉月は尚也の手をそっと握ると毛布の中に戻し、尚也の代わりに額にかかった髪をかきあげて汗をふき取る。 「憶えていないみたいですね。尚也さんは車を取りに行ったところで倒れたんですよ」 車。 そうだ。確か弘明老人に留守を任せて、GSのオーナーとその孫と一緒に、自分の車を止めたところまで向かって行った。車は隣町の山道に入ってすぐにところに隠しておいた。 太陽の日差しを浴びているというのに、妙に寒気がしていた。 車に給油している時点で、ずいぶんと酷い顔色をしていたのだろう。葉月に言われて、道端で休むことにした。道端に座ると寒気は徐々に収まったが逆に酷く眠くなった。 その後、葉月が近くの川にハンカチを濡らしに行ったところまでは思い出せる。 「ハンカチを濡らしに行ったあの後、俺は倒れたのか?」 「いえ。記憶がはっきりしていないのね。川でゾンビたちに襲われた私を助けてくれたのは尚也さんなんですよ。私が悲鳴を上げたあと、すごい速さで駆けつけてくれて」 「悪いが憶えていない。そのあたりから意識がはっきりしていなかったみたいだ。すまない。流れ弾に当たらなかったのは運が良いとしか言えない」 尚也は目を伏せて、自己嫌悪に陥る。暴発させなかったのは単に運の問題に過ぎない。 「そんなこと気にしなくて良いのに。第一、尚也さん銃なんか使いませんでしたよ」 「冗談だろ。あの時持っていたのは、銃の他はナイフが何本かだけだ。まさかそれで複数のゾンビと渡り合うはずが無い。そうだとしたら俺も無事ではすまない」 言い終えてから、尚也は表情を無くす。 もし、本当にナイフで感染者と戦闘したというのなら。しかも複数の相手と。 考えられる結果は一つしかない。 感染。死亡後、発症。いや、現状の体力の衰えを考えるとこのまま発病する確率もある。 「葉月さん。すまないがいくつか頼みたいことがある」 「なんですか。喉が渇きましたか」 「上着のポケットに入っている注射器と試験管を持ってきて欲しい。一緒に銃も頼む」
https://w.atwiki.jp/zombiestory/pages/133.html
車内は奇妙な沈黙で満たされていた。 狭い運転席から後ろを眺める。乱雑に拭いた髪から雫が滴り落ち、眼鏡のふちを伝う。 眼鏡の奥の瞳は何の色も見せず、少女の裸体など見えていないとしか思えない。 対する少女も、ある意味負けず劣らずの無表情といってもいいだろう。 あまりに紅潮しているため、その顔から羞恥以外の感情がまったくつかめないからだ。 車内を天使が通り過ぎる。絶え間ない雨が音を消し、世界は沈黙を保ち続ける。 実際には数回呼吸を繰り返すだけの間だったのだろうが、日向には数時間とも感じられた。 「……下手をすると風邪を引「クシュッ!」くぞ」 尚也の言葉にくしゃみで返事をしてしまい、日向は何事かモゴモゴと口の中で返事をすると、足元にひいておいた着替えを身につけ始めた。 「あの、着替えましたけど……」 尚也の予備のシャツとズボンを身につけて、後ろから前に身を乗り出す。 「……下着はどうした」 尚也は目の前で自己主張する胸の突起を見た後、視線を移してどこか疲れたように言った。 「えーと、濡れてました」尚也の横に座りながら、日向が返す。 「やっぱりそうですよね、ちょっとあそこだと寒いから風引きそうだなーとは思いました」 尚也は無言のまま車を走らせる。日向は窓の外をきょろきょろと見ている。 「えーと、どこにいくんですか」 「寝泊りしている場所がある。薬も置いてある」 尚也のせりふに、日向はエッと驚いたような顔をする。 「こういうときの基本だ。薬は万が一のときのために備えておくんだな」 「き、基本なんですか、そういうのは」なぜか尚也から少しずつ離れながら聞く。 「あの、できれば初めは普通がいいんですけど」 「普通?ああ、そういうことか。別に医療用とかじゃない。市販品だから副作用は無いと思うが、体質で合わないものがあるのか」 「体質というか、どちらかといえばノーマルだと思うのでちょっと」 「……何をするつもりだ?」尚也は訳が分からずに返す。 「ナニをするんですよね?」日向も不思議そうに返した。 先ほどとはまったく質の違う沈黙が車内を支配する。 尚也はため息と共に息を吸い込んだ。 「何か勘違いしていないか。俺は風邪を引かないように着替えろと言ったつもりだが」 尚也の言葉に、日向はきょとんとした後「えー!!」と叫んだ。 「だ、だって言ったじゃないですか、抱かせろって」 「ここで抱かせろと言うかも知れないとは言った。抱かせろとは言っていない」 「あの、それはもしかして遠回りなお断りなのでしょうか」 予想外の返事に言葉が詰まる。 「……こっちは覚悟を決めてたのに。潔くないと思います、そういうの」 ぶつぶつと日向は文句を言い続ける。が、尚也の呟きに声を止める。 「覚悟か」尚也の口調が変わっていた。 重く冷たいものを漂わせる声に、日向は息を呑む。 「俺に抱かれた後どうするつもりだった」 返事を待たずに尚也は続ける。 「体と引き換えに望みをかなえる。それはいい。ただ、本当にその覚悟があるのか?」 「一時の感情に身を任せてどうなる。生き残りたいのなら、自分の手段が有効なのか見極めろ。体を売るのはいいが、必ず相手が代価を払うとは限らん」 「でも、何でもすると約束しました。それに他に払うものがありません」 日向が弱い声で抗弁する。膝に置いた手は握りこぶしを作っている。 「守って不利になるような約束など捨てておけ。それに代価はすでに受け取っている」 尚也の声から冷たさが消える。 「引き金を引いただろう。それが代価だ」 「でも、弾は出ませんでした。それが代価なんですか?」 日向が不思議そうに返す。 「俺が求めたのは生きようとする強さだ。君はあそこでそれを見せた。だから助けた。死に抗おうとするのは容易い。だが、死の誘惑を跳ね除けるのは何より難しい」 「初めて君があそこに通うのを見たときは、自殺したいのかと思った。通うたびに死に誘われてるのが分かった。それでも君は生き延びることを選択した」 「だから助けた」 いくつかの通りを抜けたところで、少女は口を開いた。 「……そんなのじゃありません。そんな立派な気持ちじゃないんです」 尚也は無言で車を止めると、その先を促す。 「初めは彼女のことが気になっていたんです。もう死んでいる先輩のところにいくなんて。 もし、助けられるならそうするつもりでした。それが無理ならせめて最後まで見届けようとも思いました。でも、校庭で一緒にいる二人を見ているうちに羨ましくなったんです」 「彼女は死んだ後も先輩と一緒にいる。私は毎日それを見ているだけ」 「独りでご飯を探して。独りで隠れて。独りで逃げて。独りで怯えて。いつも独りで!!」 「死のうと何度も思った!死ねば先輩と一緒になれると思った!でも死にたくなかった!怖かった!」 感情の箍が外れ、心の奥の叫びを発する少女を尚也は黙って見つめる。 「私だって好きだったのに!……好きだったのに。でも、死ねなかったんです」 日向は涙を流しながら、まるで許しを請うかのように尚也にすがりついた。 尚也は黙って、日向の背中に手を回す。 「あの時、彼女を見た時、心の底から生きてやろうと思いました。死んでやるものかって」 「私は生き延びて、そして生きてる相手を好きになろうって思ったんです。思い出はきれいでも、形は無いから。だから生きて、生きて、生き抜いていくって決めたんです」 背をさする手の暖かさに心が熱くなるのを感じながら、日向は尚也の胸から顔を離す。 「すいません。変な話ししちゃって。その、助けられたとき思ったんです。強い人だって」 恥ずかしさに俯いた日向は、尚也の顔に刹那の間浮かんだ表情に気づくはずも無かった。 それは深い羨望だった。 日向が顔を上げたとき、瞳に映るのは常と変わらない無表情な尚也だった。 「だから、その、そういう方に考えちゃったんです」 尚也は背中に回した手を戻しながら、自分を見つめる瞳から目をそらした。 そこに映る自分の凍った瞳を見たくなかった。 「生きるつもりがあるのなら、手助けはできる」 「それって、連れて行ってくれるんですか!」日向が声を弾ませる。 「まずは一度、拠点に戻る。今後のことはそこで決めよう」 「はい!」微笑む少女が、尚也には眩しく見えた。 そういえば、あの二人は、ホームセンターの青年と少女は元気だろうか。 あの二人も生きようとする意思で輝いていた。だから助けようと思ったのだと、尚也は初めて気がついた。 自分より、彼らのような人間こそが生き延びるべきだと尚也は強く感じていた。
https://w.atwiki.jp/zombiestory/pages/121.html
作者:エロ基地◆fHUDY9dFJs 鼠 エピローグ? ジュニア 鼠 鼠 エピローグ? エピローグ? ジュニア ジュニア
https://w.atwiki.jp/zombiestory/pages/157.html
鼻につく異臭、薄暗い空間。 ここが俺の仕事場である。下水道処理場で働く俺は、その日もいつもどおり仕事をこなしていた。 昼に処理場に戻って昼飯を食って以来夕方五時まで薄暗い下水道で働き続けた。 「もうそろそろ上がりっすね。」同僚の孝志が俺につぶやいた。 この男は以前は土木関係の仕事についていたらしいのだが、上司ともめ仕事をクビになりこの下水処理場にやってきた。 いわいる厄介者なわけだが、なぜか俺にだけはなついていて俺のことを慕ってくれていた。 「そうだな、そろそろあがるか。」そう言って俺たちは処理場に戻った。 「孝志この後暇だったら呑みに行かねぇか?」俺がたずねると。 「あっ、今日はまだ事務所で始末書書かなきゃなんないんっすよ」と申し訳なさそうに答えた。 仕方がない、疲れてるし帰ってさっさと寝るか、そう思い俺は一人帰ることにした。 「そんじゃあな、お先!」と言うと、孝志が軽く会釈した。 俺は愛車のバイクにまたがり家路を急いだ。そのときはまだ、町の異様なまでの静けさに気づかなかった。 家に帰った俺はいつもどおりテレビをつけ、ビールを取りに冷蔵庫に向かおうとした。 何気にテレビに目をやると、そこに信じられない光景が写った。 「なっなんじゃこりゃ!!?」人間が血まみれになっている、いや人間が人間を食っている? 明らかにありえない映像に俺は、目を離すことができなくなってしまった。 数十人の人間が警察隊を襲い、そして食している、そんなバカな・・・。 固まっていた俺に半ばパニック状態のニュースキャスターの声が聞こえてきた。 「信じられないことが起こってしまいました。暴徒が人間を襲い、人間を食しています。」 「警察の調べによると、暴徒は脈もなく、呼吸もしていない状態で、医学的にはすでに死亡しているという発表がありました。」 「また、暴徒に噛まれた警察官が心拍停止後、起き上がり人間に襲いかかり暴徒化したという発表もありました。」 「政府は、新種の伝染病である可能性があるとして、自宅待機令を出しています。」 俺はやっと正気に戻り、「このままではヤバイ、このぼろアパートが暴徒に襲われたらひとたまりもない」と思い自宅から逃げることにした。 行くあては・・・とりあえず県警にでも逃げ込もう、あそこが一番安全だろうと考え、愛車のバイクにまたがり走り出した。 町は異様なまでに静まり返っていたが、幸い暴徒の姿は見えず隣町の県警本部には順調な道のりかと思われた。 そして隣町につながる橋に指しかっかたとき、なぞの「重低音」が聞こえた。 「エンジン音?」そう思ったが、その「重低音」はだんだん大きくなってきた。 そして、橋の真ん中まできたとき、「重低音」が「うめき声」に変わった。 橋の反対側から、押しおせる数百、いや数千を超える人影。それらが放つ「重低音」に心の底から恐怖が押し寄せてきた。 「ダメだ!隣町に行くなんてもってのほかだ!」そう思い、バイクをUターンさせもときた町に引き返した。 「どっちにしろ自宅には戻れない。」行くあてが考え付かなかったが、そのときふと思いついた。 「そうだ!処理場!あそこなら鉄製のシャッターもあるし立て籠もることくらい可能だ!」そう思いついた俺は、急いで下水処理場へ向かった。 処理場に着くと、シャッターが開け放しになっていたため容易に中に入れた。 そして大急ぎでシャッターを閉めようとすると目の前に人影が立っていて。 一瞬で凍りついたが、その人影は孝志だった、孝志はあわて顔で「先輩!だいじょうぶでしたか?」とあわてふためいている。 「どうにか無事だ、それより早くシャッターを閉めよう」二人がかりでシャッターを閉めてとりあえず事務所で一息ついた。 この処理場はシャッター以外の入り口はないので、とりあえず難は逃れたものの、食料は大人二人が立て籠もるのには余りに少なかった。 孝志以外の同僚も全員帰宅したらしく、残業していると事務所のテレビから今回の騒ぎを知ってあわててシャッターを閉めに行ったら俺が立っていたそうだ。 二人は話し合った結果、とりあえず粘れるまでは今ある食料で粘り、食料がなくなれば脱出を試みることを決めた。 食料が尽きるまでの間、なるべく多くの情報を集めることにし二人は次第に大きくなる「重低音」に耳を塞ぎながら床についた。 水処理施設に立て籠もり三日が過ぎた。 事態はさらに悪化し、警察は全滅、自衛隊は一部を除き壊滅状態、日本の政治ストップし、メディアも徐々に情報が途絶えてきた。 新しくわかった情報といえば、暴徒は頭を破壊されると活動が止まること、暴徒を殺しても罪を問われないことだけである。 処理場の周りはといえば、すでに暴徒が取り囲み一歩も外には出れない状態、食料も底を尽き、俺たちはついに追い込まれた。 このまま飢え死にかと考えてたとき、孝志があることを思いついたのだ。 そう、下水道の中から逃げるのだ。 幸いここには下水の地図をはじめ、懐中電灯や武器になるスコップなどもある、何より下水道は俺たちが慣れ親しんだ場所だ。 そうと決まれば行動は早かった、必要な物のみを持って俺たち二人は下水道に降りた。 行き先は、ここから車で約二時間のところにある自衛隊基地、かなり長い旅路になりそうだが命には代えられなかった。 空腹といつゾンビが襲ってくるかわからないという不安感の中の下水道はいつもとは違う湿った空気が漂っていた。 一時間ほど歩いたであろうか、下水が先日の雨で増水し通れなくなっており、他の道もないことが判明した。 「どうする・・・。」行き先をなくした二人は絶望の淵に立たされていたが、やがて地図を眺めていた孝志が口を開いた。 「先輩ここから三十分くらいのところにホームセンターがあります、とりあえずそこに行って食料を補給するってのはどうっすか?」 こうして二人はホームセンターがあると思われるところの下水道に向かった。 二人は目的地に着くと、ホームセンター内部につながるマンホールを探した。 「先輩ありました!」俺より先に孝志がマンホールを発見し、そのマンホールを二人がかりで持ち上げホームセンター内部に潜入した。 辺りを見渡した、ボイラー室のようだ、当然のことながら誰もいない。 「どうやら、地下のボイラー室のようだな。」とりあえずボイラー室から出て売り場に向かおうとドアを開けた瞬間、血の気が引いた。 地下の廊下にはところ狭しと人間が立っていた、俺は思わず後ずさりした。 「しまった!暴徒がこんなところにまで!」俺は急いで逃げようとした、そのとき人ごみの中から声が聞こえた。 「あ・・あんたら人間か?どっ、どからきたんだ?」俺以上に血の気の引いた青い顔の中年の男が声を発した。 「あっ・・・暴徒じゃなかったのか。」俺はやっとそのことを理解し、ツバを飲み込んでから男に今までのいきさつを一通り話した。 「ところでなんでこんなところにこんなに大勢、上の売り場はどうなっているんだ?」俺が聞くと男は少し悩んだあと答えた。 「売り場はゾンビに占拠されている、バリゲードを作ろうにもすでにかなりの数のゾンビが中にいるため不可能なんだ。」 「ゾンビ?」聞きなれない言葉に孝志が反応した、男の説明によると先日ラジオで暴徒の原因である伝染病はゾンビウィルスと名づけられ、感染者をゾンビと呼ぶという発表が政府からあったそうだ。 「ゾンビか、昔映画にあったな、そのゾンビから取ったのかな。」そんなことを思いながらこれからどうするか考えた。 「とりあえず、このままでは埒が明かない、何かいい方法がないか話し合うのが先決だ」俺は中年の男や数人の男と孝志とでボイラー室を使って話し合いをすることにした。 小一時間ほど話し合った、この中年の男は松村健史と名乗りこの生存者の中で中心的人物であることがわかった。 「とりあえず、このままでは全員飢え死にだ、ゾンビと戦うことが先決じゃないか?」俺は思っていることを、そのまま述べた。 すると松村は、「何人かの男が挑戦したが結局全員殺られちまった、まず入り口を塞がないことには何もできない・・・。」 ゾンビが中にいなければバリゲードを築くくらいわけないのだが、中にゾンビがいたのでは捨て身もいいとこだ。 俺たちはついには誰もいい案が出なくなり黙りこんでしまった。 「あ・・あの・・・」沈黙を破って孝志が口を開いた、「ゾンビと戦う人とバリゲードを作る人と二班作るというのは・・・」 名案だった、これ以上待ってもこれ以上の案は出ないと思った。 「やりましょう!どうせ死ぬならそれくらいあがいてみるのもいいじゃないですか!」皆が一致団結した。 生存者は俺たち二人を含め男18名、女11、子供3名の全員で32名である、バリゲードを作ることを志願してくれた女性を含め総勢26人で作戦を開始することに決定した。 一部の女と子供を地下に残し、作戦は開始された。 攻撃班は俺、松村さんを含めた15人、バリゲード班は元土木関係に勤めていた孝志を含む11人である。 武器といえば、スコップ、鉄パイプ、ハンマーなど、バリゲードは店内に置いてある売り物の角材などを使う。 覚悟を決めた俺たちはついに店内に突入した。 ざっと見ただけで数十人の暴徒、いやゾンビ達が食事を見つけてこちらに歩き出してきた。 幸い動きはかなり遅い、俺たち攻撃班はバリゲード班を守る形に位置取り攻撃を開始した。 最初こそためらいはあったが、内蔵を引きずる片腕のない生き物を人間として見なくなるのにさほど時間はかからなかった。 俺はスコップで的確に頭ばかりを狙いゾンビを始末していった。 何度か危なかったが、周りにも助けられどうにか難を逃れ、二時間以上攻防戦は続いた。 さすがに意識が薄れてきたが、大まかバリゲードは完成しあとは内部のゾンビ共を始末するだけだった。 狩られる側から狩る側へ・・・俺たちは内部をくまなく調べゾンビ共を一掃した。 同時にバリゲードの補強も終わり、このホームセンター内の安全がとりあえずは確保された。 が、この作戦の犠牲は大きかった、死者5名、負傷者8名という惨事になってしまった。 俺たちの表情はたちまち暗くなってしまった。 俺たちは二つの処理に追われていた。 ひとつは、ホームセンター内にあるゾンビの屍を屋上から投げ捨てる作業。 これから自分たちの住居となるホームセンター内を手分けして大掃除していた。 このとき、作戦で死亡した生存者の遺体も一緒に埋葬されることになった。 当然残っていた遺族に確認をとった上なのだが、埋葬と言っても屋上から投げ捨てるだけというなんともやりきれない作業だった。 数時間かけてホームセンター内を掃除し終わり、俺たちはもうひとつの処理を行わなければいけなかった。 ゾンビに噛まれた負傷者をどうするか、おそらくあと数時間以内で彼らもゾンビになってしまうだろう。 負傷者の中には松村さんもいた。 「負傷者の間で話し合った、俺たちはいずれゾンビになっちまう、その前に俺たちを人間として死なせてくれ・・・」松村さんは言った。 俺は首を横に振った、「それはできません、ゾンビを殺すことにも一瞬ためらった俺に人間を殺すなんて無理です。」俺はいつの間にか涙が流れてた。 生存者全員と話し合った、みんな涙を流して話し合った。 答えは出た、俺たちにゾンビは殺せても人間は殺せない。 負傷者は全員ホームセンター二階の事務室に集め、鍵をしめるというものだ。 負傷者たちは、遺族との最後のときをすごし、俺は事務室の中の負傷者に一礼し鍵を閉めた。 二階の事務室につながる廊下はひとつだけ、この廊下は屋上にもつながる廊下である。 もう屋上へあがることもないだろう、そう思い俺は事務室のドアに簡単なバリゲードを築き売り場から廊下へ続くドアも封印することにした。 売り場に戻ると皆が泣いていた。 「俺が死んだあとは、君がみんなをまとめてくれ。」松村さんの最後の言葉を思い出していた。 「みんな、泣いてたって始まらん!これからここに救助が来るまでの間生活できるだけの準備をしよう!」俺は皆に言った。 本来俺は人をまとめたりする人間ではない。 けれど、死んでいった人たちの為にも俺が皆をまとめないとと思った、なによりいつまでもこうしてはいられないのだ。 食料や衣服に困ることはまずないだろう、問題は救助、救助が来るまでの間できる限りの情報を集めなくてはならない。 俺はテレビ、ラジオなどあらゆる情報源を常に身の回りに置き、俺たちのホームセンター内での共同生活が始まった。 三ヶ月の月日が流れた。 ホームセンター内の様子はもちろんのこと、世界の様子は何一つ変わらなかった、いや、むしろ悪化していた。 ゾンビの数は依然として減る傾向を見せず、ゾンビ共の体が腐った腐乱臭がホームセンター内に流れ込み、俺たちはそれを避けるように暮らしていた。 「下水処理場で働いてたといえ、この臭いはひどいもんだ。」そんなことを思っていたある日、途絶えていたメデァからの情報がラジオから聞こえてきたのだ。 みんな、急いでラジオの周りに集まってきた。 「・・・ガ・・ガガッ・・こ・・ら北・・海道の・・・・」 「こちら北海道放送局です、この放送が本土の生存者の方々に届いてることを祈ります。」 「北海道は自衛隊により、ゾンビの脅威から救い出されました。」 「現在北海道は以前の生活への復興が進んでおり、自衛隊も本土への救出作戦を開始する模様です。」 「各地区の自衛隊基地のほうに北海道から自衛隊の救出ヘリが送られるということです。」 「本土の生存者の方々にこの放送が届いていたなら、すぐに各地区の自衛隊機地に向かってください。」 「もしそれが不可能なら、建物の屋上などに上がり救助ヘリが通るのを待っていてください。」 「繰り返します、こち・・ら・・北・・・・・」 「救助が来る!」みんな驚喜の声をあげた、俺たちは助かるのだ!! 「すぐにでも脱出の準備をしよう!」俺たちは必要最低限の荷物をまとめ希望という酒に酔いしれていた。 皆荷物をまとめて屋上に向かう、先頭の孝志がうれしそうにはしゃいでいる。 「これでやっと心の底からほっとできる、ゾンビ共がバリゲードを叩く音も、ゾンビ共のあの鼻につく腐乱臭からも開放される。」 「・・・・?」 「何かを忘れている、何か大切なことを忘れている気がする・・・。」 「腐乱臭・・・、なぜ二階のここまでにおっているんだ?なぜにおいがきつくなっているんだ?」 孝志が屋上へ続く廊下があるドアに手をかける、「ダっ・・・・ダメだ!!!!」 ドアノブが回された瞬間、中から異臭を放ち変わり果てた松村さんが孝志の首筋に噛み付いた。 噴きあがる血、悲鳴と叫び声、あとから次々と廊下から出てくる元生存者たち。 「なんてことだ・・・あと少しでみんな助かったのに・・・。」 俺は近くにあったパイプ椅子を握り締め、逃げ惑う人々をかき分けて孝志の首筋に噛み付いている松村さんの頭を叩きつけた。 松村さんは床に倒れたまま動かなくなった。 俺には松村さんは殺せなかった、だけどゾンビになった松村さんは殺してあげることができた。 俺はやっとのことで孝志を助け出すことができた。 孝志の傷は深かった、何よりゾンビに噛まれたということはそのまま死を意味する。 「孝志・・・。」俺は言葉に困った。 「せ・・・先輩気にしないで下さい・・、そんなことより早くここから脱出を・・。」孝志が途切れ途切れの声を絞り出す。 「屋上にはもう行けない、おそらくまだ数体のゾンビがいるだろう。」俺は絶望しきった顔でそう答えた。 「先輩、下・・下水道から逃・・・げて下さい、あそこならまだ安全なはずです・・・。」 「増水して通れなかった場所も今なら通れるはずで・・・す、早く自衛隊機地まで逃げて・・・・。」血まみれに孝志が言った。 「そうかその手があったのか、」俺はそう思い孝志を担いで、皆を連れてボイラー室に向かった。 ボイラー室に着くと、俺は慣れた手つきでマンホールの蓋を開け皆に下に降りるように命じた。 「せ・・・先輩・・俺はここにおいてってください・・・・。」孝志が俺の背中でつぶやいた。 「そんなことできるわけねぇだろ!!お前も一緒に逃げるんだ!!!」俺は叫んだ。 「先輩・・・そ・・それはできません、すいません・・・。」孝志が涙を浮かべながら答えた。 俺は背中から孝志を下ろした、涙を抑えることがどうしてもできなかった。 俺はマンホールを降り始めた。 上を見上げると孝志が笑顔で見送っていた。 俺は泣きながら叫んだ、「孝志、すまない!!許してくれ!!!すまない・・・・!!」 そうすると孝志は、一番の笑顔を見せ最後の力を振り絞りマンホールの蓋えを閉めた。 「・・・・・・・・」 下水道に降り立った、俺は皆をまとめて自衛隊機地まで無事連れて行かないといけない それが死んでいった仲間や孝志の為であり、俺の使命であると思った。 ここには、ホームセンターのような華やかな光も、外からにおうゾンビたちの腐乱臭もない。 鼻につく異臭、薄暗い空間、なぜか懐かしい空気に居心地のよささえを感じた。 END